溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「でも、桐島主任になんのメリットもないですよ? 本当にいいんですか?」
「うん、いいよ」
「でも……」
願ってもない話なのに、今いち踏ん切りのつかない私に、主任が苦笑いをする。
「部下が、仕事に集中できる環境を整えてあげたいからっていう理由じゃ、ダメ?」
「ダメというわけではないですよ。でも、貴重な主任のお時間をちょうだいするわけですから、なんらかの見返りは必要だと思うんです」
「なるほど。対等な取引じゃないと納得できないんだ。まあ、報酬に欲しいものがないわけではないんだけど」
引かない私を横目で見て、ふっと微笑む。妙に色っぽいその仕草に怯む私の頰に、主任の指が触れた。
「浅田さんがそこまで言うなら、報酬をもらおうかな」
近づいてきた主任の顔に、思わず身体を引いてしまう。助手席のドアに張りつく私の顔の横に、長い腕がつく。
「俺、キス魔なんだよね。誰かれ構わずするわけではないけど、キスは好き。だから、報酬はキス。いい?」
「キ、キス!? で、でも……私なんぞの唇が報酬になるとは……思えな……」
間近にある整った顔に動揺しながら、必死にそう口にする私の唇を桐島主任の親指がなでて、言葉が詰まる。
「そう? 柔らかくて俺好みっぽいけど。試してみていい? 今なら、まだ引き返せるよ」
目を細めた主任の色気に当てられて、思わずぎゅっと目を閉じた。
しまった。これでは了承したも同然ではないか。自分の行動に後悔して目を開こうとしたが、できなかった。
主任の吐息が、私の唇に触れている。
「……逃げ道は作っといたつもりなんだけど。これは浅田さんが悪い」
そう呟いた主任の唇が、私の唇に重なった。身体を強張らせる私の頭を、主任の手が宥めるように撫でる。