溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「それとも俺じゃ、役不足?」
「い、いえ! そんな、とんでもない!」
役不足どころか、身に余るというか、いや、ありがたいけれども。
ああ、でもこんな素敵な人が私ごときを相手にするはずはないし、天下の桐島フーズの御曹司だ。
将来は然るべき相手と結婚するつもりに違いない。そういう点では、すごく安心かもしれない。
私は、恋愛をする気もないし、まして結婚なんて絶対にしたくない。少し人間らしいところは見れたものの、苦手意識はまだ残っている。
この人に異性としての魅力も感じていないし、私がうっかり恋心を抱いてしまうなんていう可能性は限りなくゼロに近い。
しばらく自分の思考の中に沈んでいた私は、桐島主任がこの案件に最適な人材な気がして顔をあげた。
「本当に、お願いしてもいいんですか?」
「今の間のあいだになにを考えていたかは気になるけど、いいよ。言い出したのは俺だし」
「……本当に恋人はいないんですよね? 大人の関係な方も?」
「なんか、浅田さんの中での俺のイメージがわかった気がする。ちょっとショックだ。本当にそんな人いないから。俺、恋愛に対してはすごく真面目だよ」
疑いの目を向ける私に、主任がため息をつく。
や、だってもしそういう人がいて刺されでもしたら嫌だし。余計な火の粉をかぶるのはごめん被りたい。
だって、これだけのイケメンですよ? 確かに浮いた噂は聞いたことはない。でも、それはあくまで社内での話で、社外にそういう人がいると思うじゃない。
「いいところのお嬢様の婚約者がいるとかは?」
「いないよ。正直に言えば親父にそういう話を出されたことはあるけどね。俺、嫁さんは自分で見つけたいから。なかなか疑り深いね、浅田さん」
なるほど。今のところは、いないと。だがしかし、おいしい話ではあるけれど、飛び込んでもよいものか。
悩みながら、私を面白がっているような表情で見下ろしている主任を見上げる。