溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「は? レストランの名前?」
「なんだ、沙奈、知らなかったのか。なんだっけ、難しい名前だったよなぁ。横文字の」
「ミオテゾーロ?」
「だっけか? その意味が、外国語で『私の宝物』なんだってよ。沙奈は自分にとっての大切な宝物だから、レストランのオープンの日に入籍してその言葉を贈りたいって言ってたなぁ」
なに、それ。そんなの聞いてない。そういえば、どうしてもその日に入籍したかったって言っていた。その理由が、これ?
「浅田さーん。検温に来ました」
「あ、じゃあ、そろそろ帰るね」
ちょうど、看護師さんが体温を測りに来たタイミングで、椅子から立ち上がる。
「ああ、ありがとな。東吾くんにもよろしく。ああ、沙奈。おこうこ食いてえなぁ」
「うん、わかった。土曜日に持って来るね東吾と来るからね」
おこうこは、漬け物のことだ。結婚する前に東吾の家から一度自分の家に帰ったとき、薄情にも私はばあちゃんの形見の糠床の存在をすっかり忘れていた。
結婚した次の日に思い出して、三週間も放置していたから絶対にダメになっていると青くなった。落胆していたのだが、結果的に糠床は無事だった。
なんと、東吾が毎日世話してくれていたのだ。
糠床に手を突っ込むなんて、勇気がいっただろうに「沙奈の大切なものだから」と微笑まれたときにはもう、惚れ直した。