溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
『沙奈、辛いことにも寂しいことにも慣れちゃダメだ。そんなもんに慣れる必要ねえ。じいちゃんは、いつだって沙奈の味方でいるからな。どんなことでも言え。俺が助けてやっから』
じいちゃんが、昔私に言ってくれた言葉が甦る。小学生の頃、母親がいないことが原因でいじめにあったときに言ってくれた言葉。
私には、助けてくれる人がいた。でも、桐島主任は?
この人は、ずっとその重圧にひとりで耐えてきたのだろうか。誰にも弱音を吐けず、じっとひとりで……。それって、どんなに辛いことなのだろう。
なんだかたまらなくなって、主任の両手をぎゅっと掴む。突然の私の行動に驚いたのか、切れ長の瞳が大きく開かれて、その瞳に真剣な顔の私が映った。
「そんなことに慣れちゃダメです! 辛いときは辛いって、言っていいと思います。私、主任の味方でいますから。私でよかったらなんでも聞きますので、言ってください。いつでも聞き……」
伝えたい言葉を、最後まで口にすることはできなかった。主任が私の身体を抱きしめたからだ。
「しゅ、主任……あのっ」
「主任じゃなくて、東吾だって。ごめん、なんか……無性に抱きしめたくなって。そんなこと初めて言われたから」
はあっと息を吐くと、彼はさらにきつく私のことを抱きしめる。