溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

そんな完璧な彼が、私は少し苦手だったりする。仕事中は必要なこと以外喋らないし、表情を一切変えない。笑っているところなんて、一度も見たことがない。

なにを考えているのかよくわからなくて、硬質なメタルフレームの眼鏡をしているせいもあるのか、冷たそうに見えてなんとも近寄りがたい。

何だか人間味というか、そういうものが感じられなくて得体が知れない。というか、不気味。彼のそういうところが、私は苦手だった。


そんなわけで同じ課になっても、仕事上で必要なこと以外話したことがなかった。それは直属の上司となった今も変わりない。

「どうした? なにかあったか?」

「い、いえ……なんでも」

顔を逸らしてごまかそうとすると顎を掴まれて、強引に引き戻される。こんなところを見られたら、他の女子社員に殺されそうだ。

誤解されるのでやめてくださいと言いたいが、美形のしかめっ面というのはなかなかに迫力があって言葉が出てこない。

というか、主任……。顔、険しすぎるんですけど。いつもの無表情はどこに行った。

「じゃあ、どうして泣いているの? 誰かになにか言われた?」

「ち、違います」

桐島主任の言葉に、目だけ逸らせて慌てて首を横に振る。そこで、ふいにこの険しい顔の原因に思い至った。

あ、なるほど。今回のレストラン事業のプロジェクトメンバーに私が選ばれたときに、先輩社員から不満の声があった。

もしかして、それでなにか言われたんじゃないかと心配してくれている……のかな。めっちゃ怖いけれども。


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