溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

今日も車を降りるときはさりげなく手を貸し、段差があるとか、足場が悪いとか、適切な声かけをしてくれていた。

こういうところを見ていると、じいちゃんが主任を気に入るのもわかる。気も利くし、優しい。
話すときに必ず身を屈めてじいちゃんと目を合わせているし、今も最近痛むという腰を労わるようになでている。

「じゃあ、おじいちゃんとお風呂に行ってくるけど、沙奈も一緒に入る?」

水を飲み終わったじいちゃんに手を貸しながら、涼しい顔をしてそんなことを言う主任のことを、ギロッと睨む。

「私は後で入ります」

「そう? じゃあ、おじいちゃん。行きましょう」

「行くべ、行くべ」

はしゃぐじいちゃんを連れて、脱衣所に消えていく後ろ姿を見送ってため息をつく。

私だって、じいちゃんとお風呂に入りたい。身内だから、裸を見られることにも抵抗はないけれど、じいちゃんにこんな身体は見せられない。

なぜならば、私の肌には虫さされと呼ぶにはあまりにも生々しい鬱血痕が多数残っているからだ。

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