溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

鎖骨に、胸元に、お腹や脇腹にもそれはある。おそらく、自分ではたしかめられない背中やうなじにも数ヶ所。

つけたのはもちろん、桐島主任。こういうことをするようになったのは、あのプロポーズの次の日からだ。

首筋や鎖骨にキスはされても、痕を残すようなことはしなかったのに、あの日から主任はなぜかそういうことをするようになった。

そしてキスをする範囲が、お腹や背中に広がり、時々チクっとするから恐らくそこにも痕を残されている。

自分では気づかなかったうなじに残る痕を高橋に指摘されたときには、恥ずかしくてたまらなかった。

「桐島主任て、クールに見えて独占欲かなり強めだな」と、哀れむような目で見つめられたときはなんともいたたまれない気持ちになった。

そういうことをするだけで、プロポーズや私が結婚をしない理由については触れてこないところがなんとなく恐ろしく不気味だ。

「部屋にお風呂ついててよかったかな。これじゃ、大浴場は行けない」

なにを話しているのかまではわからないが、楽しそうに笑うじいちゃんと主任の声が聞こえる。本当に仲がよくて、孫娘ちょっとジェラシーよ。

ふうっとため息をついて、鞄からデジカメを取り出す。画面には、桜をバックに笑顔のじいちゃんと主任が写っている。

「綺麗だったなぁ、桜」

ここに来る前に寄った、早咲きの桜が見れる場所。桜のトンネルを三人で歩いて、露店で売っていたご当地グルメを食べた。

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