溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「ここの庭は、もう少ししたら、
ありとあらゆる花が咲いて、綺麗になりますね」
彼は恥じらうありすを優しい瞳で見つめ、
余り恥ずかしがらせないうちに、わざと視線をそらし、
月明かりに浮かぶ窓からの光景を見つめて、
何かを思い出す様に柔らかく瞳を閉じる。

「花の盛りに、この庭に来たことがあります。
随分の前の……子供の頃の話になりますが……」
ふとその瞬間に、窓ガラスに人影が映り、
藤咲はその人物に視線を移す。
カラリと音がして、男が入ってきた。

「おや、藤咲先生ではないですか」
それはさっき、ありすが庭で出会った、
瀬名という男だ。

「ああ、瀬名社長。いつぞはお世話になりました」
笑顔で会話を交わす二人は、どうやら知り合いらしい。
なんとなく居づらくなって
ありすはその場から遠ざかろうとする。
(それに、瀬名社長はなんだかちょっと怖いし)
そう思って一歩後ずさりをした瞬間。

「っと……今日の主役につまらない思いを
させてはいけなかったな」
くくっと笑って気づけばまた瀬名に手を掴まれていた。

「あのっ……」
(また逃げられなくなってしまう……)
ありすはそう思うと、咄嗟に、
隣に立っていた藤咲に視線を向けた。

「……瀬名社長。ありすさんが
困っているようですよ。
強引さがウリの瀬名社長ですが、
深窓のお嬢様には、少々強引すぎてしまうようですね」
ふわりと爽やかな笑みを浮かべ、
藤咲が、その手をそっと瀬名の手に重ねた。

「先生、俺は残念ながら、
そっちの趣味はないんだが……」
「もちろん、私もないですよ?」
男性二人の視線が真正面からぶつかってしまう。
くすりと笑いかえす藤咲の様子に、
ありすは何とも居づらい空気を感じる。

「あのっ……私、
探さないといけない人がいるので、
これで失礼します」 
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