溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
最初のデートはぎゅっとして?
「それでお嬢様、いかがでしたか?」
三人の男性に囲まれて、
完全に思考停止をしているありすを
橘はその場から救い出し、
その後お嬢様もお疲れのようですし、
と、ありすを会場から連れ出してくれた。

そのまま泊まったらよいだろうと、
ありすの父によって用意されていた
ホテルの部屋に戻ると、
疲れ果てたありすはドレスのまま
ベッドサイドに座り込んでしまった。

「──お嬢様?」
再度声を掛けられて、
ありすははっと視線を上げる。

「あの……慣れないことばかりで疲れました」
思わずため息を零すと、橘は微かに眉を寄せ、
同情したような表情を浮かべた。

「そうですか。
誰か良い方に出会えたのかなと
そんな風にもお見受けしたのですが……」

そういうと、橘はありすの
軽く編み込まれていた髪を解き、
ブラシでゆっくりと梳っていく。

ありすはその柔らかで優しい指に、
心地よさに瞳を閉じる。

「……今回お話されたのは、
那賀園様、瀬名様、藤咲様、でしょうか」

そう突然尋ねられて、ありすは思わず目を見張った。

ありすは橘を探していたのに、
その場に居なかったはずの
橘はそれを全部わかっていたのだろうか。

「先ほど、私がお迎えに上がった時に、
その三方がお嬢様を囲んでいらしたので」

ありすの表情を読んだのか、
そうさりげなく言葉を付け足すと、
橘はありすの答えを促す様に言葉を止める。

「そう……ですね」
ぽつりと言葉を返すと、橘は
薄い唇の口角を持ち上げて小さく笑う。

「……私の申し上げた通りでしたでしょう?」
「何の事ですか?」
「お嬢様から話し掛ける必要なありません。
興味のある相手にのみ、お声を返したらいいのですよ
──とパーティの前に申し上げた事です」

「他の男性方と
その方たちはどこか違いましたか?」
そう尋ねる橘に、ありすは
怒涛の数時間を振り返る。

駿にシロツメグサの花を貰い、
『運命みたいですね』と囁かれ、

瀬名に強引に抱きしめられて、
『貴女とここで会っていたかもしれない』と言われ、

藤咲が弾くピアノの旋律に懐かしさを感じて、
『貴女は笑顔が素敵ですね』と褒められて。

不慣れな男性との接触に、
既にありすの処理能力は限界を超えている。

(とにかく、もう何かを考えている余裕はないかも)
ありすは小さく吐息を零した。

< 22 / 70 >

この作品をシェア

pagetop