左手にハートを重ねて
 ザクロの色をしたシャーリーテンプルのグラスの底から、いくつもの泡が、ぽこぽこと浮かんでは消えていく。

 らせん状に剥かれたレモンの皮に、まとわりついては離れていくさまは、刹那的であり、そして官能的でもあった。

 私はカウンターにペタンと頬をつけながら、その様子をぼんやりと眺めていた。


「恋って、カクテルの泡みたい」
「は?」
「甘くてとろける蜜の中で、キラキラゆらゆらして。でも、つかまえたと思っても、やっぱり幻みたいに消えていくの」

 すると、隣でピルスナーを飲んでいた親友の南波《みなみ》は、「これから幸せになる人が、なに言ってんだか」と、呆れたようにタバコの煙を吐く。

 南波は知らないのだ。
 どうして彼が、私と結婚することになったのか。

 彼も私も、本当はどんな気持ちでいるのかを。
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