左手にハートを重ねて
 私の少し前を歩いていた足音が止まる。
 そして、ゆっくりとこっちに近付いてくる気配を感じた。

「立てるか?」

 黙って首を振る。
 彼はハァッとため息をつくと、私に背を向けてしゃがみこんだ。

「乗れ」
「……子どもじゃないし」
「子どもじみたことを言うな。いいから、早く乗れ」

 ぶっきらぼうな彼の言葉。
 私はしぶしぶ従うけれど、本当はちょっぴり嬉しい。

 広くて温かい背中。
 私はぺたんと彼の肩に頬をつける。

 まだ怒っているのかな。
 彼の表情は、ここからじゃ見えない。
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