もう一度、あなたに恋していいですか
「…柏木美々さん、暗くなる前にそろそろ帰られてはどうですか。夜道は危ないですから」

何でフルネーム?

「ほんとだ、もう5時半過ぎじゃん。そうします」

美々はスクールバッグを手に取り、立ち上がる。

「今日も話を聞いてくれてありがとうございました。珈琲も御馳走様です」

「いえ。またいつでもどうぞ」

「はい。じゃあさようなら」

わっ…やば。
美々がこっちに来る!

「気を付けて帰ってください」

美々が扉を出ると、左に曲がって保健室をあとにする。
足音が聞こえなくなった頃に、私はゆっくりと美々が歩いていったほうを確認する。
いないことを確認すると、私は胸を撫で下ろす。

美々が右に曲がってたら見つかってたわ。
助かった…

「何かご用ですか」

いきなり耳のそばで声が聞こえ、私は思わずビクッと身体を震わす。

「さ…西條先生…」

先生はにやにやしながら、私のほうを見ている。
やっぱり気づかれていたのね。

「お話しするのは初めてですね。柏木寧々さん」

「そ、そう…ですね」

さっきは問いつめてやるって意気込んでいたけれど、実際に目の前にすると言葉が出ない。

「どうぞ入ってください。珈琲を御馳走しますよ」

西條先生は保健室の扉を全開にして、私を中に招き入れる。

「…わかりました」

私は少し考えてから保健室に足を踏み入れる。
そして先生は保健室の扉を閉めた。
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