もう一度、あなたに恋していいですか
「ちょっとどうしたの圭介さんっ…！歩くの早いよ」

駅から歩くペースを落とさず何も言わず、私の手を引く彼。
いままで感じたことのない雰囲気に、私は戸惑いを覚える。

「ああ、ごめん」

彼はきつく握りしめていた私の手を離し、向き合う形で住宅に囲まれた歩道の真ん中に立ち止まる。
ただ雨の音だけが響き渡る。

「ちょっと久しぶりにいらっときてさ。さっきの人知りあい？」

圭介さん、いらいらしてたんだ。
そんな姿、今まで見たことがなかったので驚く。

「お隣さんだよ。挨拶する程度だから、そんなに関わりないよ」

「そうか…あんまり関わらない方がいいよ彼は。かなり睨まれたよ。殺気に近いほどのね」

三枝さんは何でこんなに私に構ってくるのだろう。
私のこの恋を終わらせたがるのだろう。
ただ面白がっているだけなの？

私が上の空の間に、圭介さんは私の唇に軽くキスをする。
不意打ちで私は驚いて彼の目を見つめる。

「いまさっきの彼のこと考えてたでしょう」

図星だ。

「そんなことな…」

「未羽は考えてることが顔に出るから、それくらいわかるよ。目の前に僕がいるのに、妬けるな」

ーードクン。

圭介さんの顔近い。

「帰ったらまず、未羽のことを食べたい」

そんなこと真剣な顔で言われたら逆らえないよ。
嫌なわけないけど。

「…うん」

雨の中私たちは夢中で唇を重ねた。
差していた傘はいつの間にか広がったまま地面に転がっていた。




後ろで”彼が”見ているとも知らずに。
傘も差さずにどこか寂しく、遠くを見るような眼差しで。
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