もう一度、あなたに恋していいですか
「そんな人…いませんよ」

「でもさっき…」

彼女はいないってことは、さっき呼んでいたのは…?

「俺、なんか言ってました?」

「…"あいり"って」

私がその名前を口にすると、彼はなにも言わず天井を見る。
そのまま気まずい沈黙がつづく。
言っちゃまずかったのかな。

しばらくしてから彼のほうから口を開いた。

「"愛莉(あいり)"は昔付き合ってた…彼女の名前。彼女って言っても…不倫ですけど」

「え…」

三枝さんが、不倫?

「俺の会社の先輩で、すごく仕事のできる人でした。尊敬してて、後輩の面倒見も良くて、そんな彼女を俺は…ずっと好きでした。でも彼女は…結婚していました」

まるで、私と圭介さんとの馴れ初めを聞いているようだった。
それほど似ている境遇だった。

「ある日俺、彼女が落ち込んでいるのに気づいて、話を聞いたんです。話を聞くと、彼女は…旦那さんの浮気に悩んでいました」

彼はごほごほと咳き込むと、私は机に置いていたコップに入った水を渡す。
彼は飲み干すと、さらに続けた。

「俺は…彼女に近づくチャンスだと思いました。弱っているところにつけこむなんて最低だと思うけど…今しかないと思いました」

私はなにも言わず彼の話に耳を傾ける。

「”じゃあ…仕返ししてやりましょうよ”
俺はそう言ったんです。そこから…俺と彼女の関係は始まりました」

「…」
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