もう一度、あなたに恋していいですか
「さ、西條(さいじょう)先生」

窓から顔を出していたのは、保健医の西條先生だった。
若い男の先生で白衣を着て髪はぼさぼさ、いつも寝癖がついていた。
黒縁眼鏡をかけていて、眼鏡を外したら格好いいらしいと噂を聞いたことがある。
本当かは知らないけれど。

「こんにちは。2年3組の柏木美々さん」

「私のこと、覚えてるんですね」

西條先生とは体育のときに一度膝を擦りむいて保健室に行っただけで、全く接点はない。
私のことを覚えていなくてもおかしくはなかった。

「一応生徒の顔と名前、全員覚えてるんですよ。特にあなたは学校唯一の双子の姉妹の妹…印象に残っています」

「そうなんですか」

気まずい沈黙が流れるなか、先生は私をみてにやにやしている。

「お姉さんもよくここで告白されてますよ。何回かみかけました」

寧々ちゃんはやっぱりモテるんだな。
小学校のときも中学校のときもそうだったな。

「…盗み聞きしてたんですか?」

「盗み聞きだなんてとんでもない。保健室は裏庭に面しているので聞こえてきてしまうんですよ」

「…じゃあさっきのも?」

「ええ、青春ですねえ。でも辛いでしょう。八木昴くんへの恋心を隠すのは」

「え…」

私が昴を好きなことがバレている。
隠していたつもりなのに、よりによって先生にバレているなんて。

「正直、第3者から見たらバレバレですよ。八木くん本人は気づいていないみたいですが」

「…私がいくら好きでも、昴は私を好きになりません」

涙が零れないように私は空を見上げるふりをする。
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