日常に、ほんの少しの恋を添えて
 運ばれてきた玉子サンドをはむ、と口に運びつつ、新見さんが遠くを見つめる。私も湯気が立ち上るナポリタンをフォークで巻きながら、ため息混じりでそうなんです……と呟く。

「私、どうしたらいいでしょう。専務に惚れてる人間が秘書やっててもいいんでしょうか?」
「いいんじゃない? うちの会社社内恋愛禁止じゃないし」

 私の悩みにあっさり答えてくれた新見さんは、何か問題でも? と言いたげに首を傾げる。

「いや、あの、今はまだ専務にバレていないからいいんですが、そのうちうっかり私の気持ちがバレてしまったりしたら専務を困らせてしまうのではないかと……」
「長谷川さんは、専務に気持ちを伝える気はないの?」
「ないですよ」

 どうして? と言わんばかりに新見さんが私を見て再び首を傾げる。

「だって。相手は藤久良グループの御曹司ですよ。生まれ育った環境も、今の環境も違いすぎます。……私はただの秘書ですから」

 すると新見さんがあのね、と私を見つめ話し出す。

「専務がそんなこと気にすると思う? 一緒にいればわかるでしょう、そんな環境とかで人を選んだり、判断したりするような人じゃないって。長谷川さんが一番よくわかってるんじゃないの?」
「……はい……」
 
 そう言われてしまうと、ぐうの音も出ない。
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