日常に、ほんの少しの恋を添えて
「そうか……志緒ちゃんはいい子だな。こんな子に好かれて湊が羨ましい」

 小動さんがしみじみと呟いた。
 そんなこと言われるとこっちはどうしていいかわからない。私は小動さんの視線から逃れるようにエレベーターの方に視線を送る。

「……ほっ、ほんとに専務遅いですね! 私様子を見てまいります」

 恥ずかしさが限界に達した私は、勢いよくソファーから立ち上がって歩き出した。

 ……あんなこと暴露する予定じゃなかったのに、なんで私自分の気持ちあの人に話しちゃったんだろう……
 きっと、小動さんのふわっとした人柄のせいかもしれない。


 そんなことを考えながらエレベーターの前まで来ると、ちょうど開いたエレベーターから専務が現れた。

「長谷川。ごめん、待たせたな。小動来てるか?」
「はい、少し前に。カフェスペースでお待ちです」
「ありがとな。あいつ何か変なこと話したりとかしなかった?」

 ちょっとドキッとしたけど、私は何事もなかったかのように「はい、特に」と言って誤魔化した。
 あの話を聞いたことは専務には言わない方がいいと思ったから。誰だって知らないところで自分の過去、しかも異性関係をバラされるのは愉快ではないだろうし。

 そんなことを考えながら再びカフェスペースに戻り、小動さんに挨拶をしてから私は自分の部署に戻った。
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