日常に、ほんの少しの恋を添えて
 彼の言葉に私は首を傾げる。

「もしかって、なんですか?」
「結婚とか?」

 さして何でもないことのように、小動さんはサラッと言ってのける。逆に言われたこちらはちょっとだけ動揺する。
 結婚だなんてありえない。

「あるわけないじゃないですか、私はただの部下ですから」
「そうかなー。でも志緒ちゃんは湊のこと好きでしょ? 俺としては湊がずっと一人でいるより、誰かいい人見つけて結婚してくれた方が気持ちが楽になるんだけど……どうかな?」

 小動さんはニヤニヤしながら口元を手で押さえている。
 なんかもうすっかり私が専務のこと好きだっていうことになってるし。
 いや間違いではないんだけど……でももう否定したり誤魔化すの面倒だから、いいか……
 
「……はい、好きです……」

 素直に白状すると、小動さんがグッと私の方に身を乗り出してくる。

「ねえ、じゃあさ。君は湊が藤久良のトップにならなくても好きなままでいられる?」
「へ? トップ、ですか?」
「うん。湊は次男だから」

 ああ、なるほど。
 でもそんな質問は愚問です。

「私はあの方の肩書とかに惚れたわけではありませんので……」

 ついペロッと自分の素直な気持ちを吐露してしまったら、小動さんがニッコリと微笑んだ。
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