日常に、ほんの少しの恋を添えて
 途端に恥ずかしくなって、私は顔を覆う。
 に、新見さあーん……
 そんな私を見て花島さんが焦ったように顔の前で手をひらひらさせた。

「大丈夫よ、言わないから! でね、これ買って専務のとこ行ってくれる? けっこう声が辛そうだったからなるべく急いでね。必要であれば病院に連れてってくれるとありがたい。あの人、病院嫌いだから」
「え、専務って病院嫌いなんですか? 意外だ……」

 また一つ専務の意外な事実を知ってしまった。が、それは置いといて。
 私は花島さんからメモをもらい、自分の荷物を持って急いで部署を出た。



 ドラッグストアとスーパーをはしごして、メモに書かれた品物を揃え、ついでに自分の考えで多分これは必要じゃないかと思われるものも購入した。
 最寄りの駅から専務の住むマンションは割合近い。徒歩5分かからない場所にあるので一度来ただけの私でも迷わずに到着した。タワーマンションで目立つ、というのもあるが。
 立派なエントランスの自動ドアの前で専務の部屋の番号を入力し、呼出ボタンを押すと、ちょっとした間のあと

『はい』

という声が聞こえた。その声に正直驚いた。

 ――ガラガラじゃない……

「長谷川です」
『ありがとう。開けます』

 音声が切れたのと同時に自動ドアが開いた。ので、私は急いでその中に飛び込んだ。
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