日常に、ほんの少しの恋を添えて
 不思議に思いながらも、いただいたケーキを冷蔵庫にしまう。

「お飲み物は何がよろしいですか? コーヒー、紅茶、緑茶、ほうじ茶などありますが」
「紅茶ちょうだい」

 美鈴さんは私の方を見ずに、早口でこう言った。

 ――感じ、とても悪い。

「かしこまりました」

 笑顔で頷くものの心の中で溜息をつきながら、私はキッチンに戻り紅茶の準備をする。

 ここに来たってことは何か話があったからだよね。それなのに私なんかがいたら邪魔だもんね……ご機嫌斜めなのは仕方ないか……

 なんて一人でお湯が沸くのを待ちながら疎外感を味わっていると、対面キッチンの向こう側にいる二人が話し始めた。

「ここに来ること、小動は知ってるのか」

 専務の声が、いつもよりちょっと低い。怒っているのだろうか。
 それに対して美鈴さんは、そんな専務の怒りなどさして気にも留めていないようだった。

「知らないわよ。言うわけないじゃない。やきもちやくもの、あいつ」
「俺に用事なんてないだろう。用件は手短に済ませてくれ」
「だからお見舞いよ。あなた病院嫌いだから具合悪そうなら病院連れて行ってあげようかと思ってたんだけど、まさか秘書の子がいるとは思わなかったわ。でもちょうどよかった。貴女にも会って話してみたいって思ってたから」
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