日常に、ほんの少しの恋を添えて
「恋愛……」

 美鈴さんの言葉を、私もなんとなく呟いてしまう。すると彼女は冷めた紅茶で喉を潤してから、私に微笑みかける。

「とにかく。湊のことよろしく頼むわね。あんまり女の扱いうまくないけど、正直で優しくていい男だから。じゃ、私帰るわ。湊にはよろしく言っておいて」

 椅子の上に置いてあったバッグを手に取ると、美鈴さんは立ちあがった。そして私の方を見ずに、真っ直ぐ玄関に向かって歩き出す。

「ええっ!? ちょ、ちょっと待ってください! 専務を……」
「いいわよ。かぜっぴきは寝かせておきなさいよ。じゃね、頑張って。あ、そうそう。さっきはつっけんどんな態度とってごめんね? 湊一人かと思ってたらあなたがいたからちょっと意地悪しちゃった。これくらいゆるして」
「気にしてませんので……」
「ありがと」
 
 最後私ににこっと美しい微笑みをくれた美鈴さんは、本当に専務に会わずに出て行った。

 嵐が去り、玄関にぽつんと立ち尽くす私はどうしたらいいのか。
 それより、美鈴さんが帰ったんだ。一応連絡はしないと。と専務の寝室をノックする。

「はい」

 寝ているかと思ったら、起きていたようだ。
 ドアを開け中を覗くと、間接照明の明かりの中でペットボトルの水を飲んでいる専務がいた。



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