日常に、ほんの少しの恋を添えて
 謙遜とかじゃなくて、現時点で私は専務と付き合いたいとか、結婚とかなんて考えていない。だから正直にこういったのに、美鈴さんは
「は?」
 と言って顔を顰めた。はっきり言って美人が台無しだ。
 
「湊いい男なのに。なんで思わないのよ」

 わーん、キレられた。

「いや、うーん、そのへんはなんとも……あっ、もしかして美鈴さんはまだ専務のことが好きなんですか」

 返事を濁した上咄嗟にこんなことを聞いてしまった。
 言ってからしまった怒られる! と私は一歩引いて身構えた。しかし美鈴さんは怒りはせず、私から目を逸らし、窓を見てため息をついた。

「もちろん嫌いじゃないけど。でも私にはもう小動がいるから。あの男の方が私には合っているのよ。小動は湊と違って私の欲しいものをくれるしね……私にはベストな男だと思うわ」
「それは……専務はくれなかったんですか?」
「物はくれたわよ。欲しいっていえばアクセサリーだって、バッグだって買ってくれたわ。でもね私が本当に欲しかったのはそういうものじゃない。湊はそれをくれなかった」

 少しだけ寂しそうな彼女の様子に、私は少しだけ胸が苦しくなった。
 くれなかったものって、なんだろう。

「あの。それは一体……」
「……だいたいわかるでしょ。湊は私と恋愛をしてくれなかった」
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