日常に、ほんの少しの恋を添えて
「……美鈴と知り合ったときはなんていうか……いろいろタイミングが悪かったんだ。親の紹介だったんだけど、俺も美鈴も当時26でさ。美鈴は女子大出て親父さんの会社で働き出して三年目。それに対して俺は大学を出て二年間の海外留学を経て藤久良の系列会社で働き始めたばかりで」
「ええ、それじゃ……」

 専務が少し困ったように微笑む。

「まあ、俺が小動みたいに器用なタイプだったらよかったんだけど、残念ながらそうではなかったもんで」

 ――それは、そうだろうな。なんてったって御曹司だもの、周囲の期待とかも半端なかったはずだ。そんなときに恋愛……私だったら、そんな状況で仕事以外のこと考える余地ないよ。
 
 私も器用ではないので共感できる部分が多くて、つい専務の言葉に何度も小さく頷いた。

「それが原因で美鈴さんとうまくいかなくなったんですか」
「うんまあ……だんだんすれ違って、気が付いたら美鈴は小動と仲良くなってて。最初はショックだったけど、結果的にはよかったと思えるようにはなったよ。小動はチャラいが、女性に対しては俺と違ってマメだからな。美鈴には合ってたんじゃないか」
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