日常に、ほんの少しの恋を添えて
「――っ……」

 うまかった、とごちそうさま。ただそれだけだけど、私の胸を物凄い勢いで熱くさせるには十分だった。
 食べてくれた。専務、食べてくれたんだ……
 あんなに毛嫌いしていたお菓子を食べてくれた上に、おいしいと言ってくれた。本心かはわからないけれど、それでも私は十分に嬉しかった。泣きそうだ。
 だけど、今は勤務中だ。感動してる場合ではない。私は必死で昂ったこの気持ちをクールダウンさせる。
 あの人は、なんでこうも私の欲しいものをくれるのか。それなのに今は傍にいないなんて。これってどんな試練なんですか……
 私は周囲の社員にバレぬよう、こっそりと深呼吸を繰り返した。

 彼氏に振られて、恋をすることがちょっと億劫になっていた私に……私の秘書としての日常に、あの人は優しい恋を添えてくれた。

 ――専務、私間違えました。


 私、あなたのことが好き、じゃなくて大好きです。好きな人はあなただけです。ずっと。
 
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