日常に、ほんの少しの恋を添えて
 ――あれから三年が経過した。

 私は二十六歳になり、今は河出専務という五十代後半の役員の秘書をしている。
 この部署で秘書をする生活にもすっかり慣れ、こんな私にも部署内に後輩社員ができたりした。もちろん、先輩社員である花島さんも在籍中だ。

 新見さんはこの三年の間にお子さんが生まれて、お母さんになった。
 一時帰国されたときに花島さんと三人でランチに行ったけど、お子さんを連れた新見さんはすっかりお母さんの顔をしていて、とても幸せそうだった。

 そして湊専務……いや、藤久良湊さんには三年前のあの日以来会っていない。

 湊さんが海外に行ってしまってから、何度か携帯に湊さんの携帯から着信はあった。何回かは話もしたけど、そのうちタイミングが悪くて着信があっても電話を取ることができず。かといってこちらから掛けていいものか悩んでいるうちにいつしか電話も来なくなった。

 もう私のことなど好きじゃなくなったのかなと、少しだけ落ち込んだこともあった。

 たまたま町で遭遇した、小動さんと美鈴さんのカップルに聞いた話によると、湊さんはずっと海外に行ったきり、らしい。
 その時遭遇した二人は既に結婚準備に入っていて、新居で必要な物の買い出しに来ていた。
 小動さんも美鈴さんも、私が湊さんと付き合っていない、と知りちょっと驚いたようだった。そんな二人に付き合わなかった理由を説明すると、美鈴さんはちょっと苛ついたように、整った眉根を寄せた。
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