日常に、ほんの少しの恋を添えて

「湊さんと一緒に働いていたときは……湊さんに沢山迷惑をかけてしまった印象しか残っていなくて、不甲斐なかったので。だから河出専務を担当することになって心機一転しようと思ったんです。いろんな雑念とか、細かい悩み事とか全部取っ払って仕事に集中しようと思いました。だから私も湊さんから連絡が無くても、どこかで元気にしているならいいかって、思えるようになったんです」
「なるほど」
「まあ、仕事に熱中すればするほど、趣味のお菓子作りにも熱中しちゃってたんですけどね……あ、そうだ。湊さん三年前私が作ったガトーショコラ食べてくださってありがとうございました」

 いきなり私が持ち出した三年前の話題に、専務は一瞬え? という顔をした。けどすぐに思い出したように「ああ!」と言って私に笑い掛ける。

「あれな。花島が長谷川が作ったガトーショコラだって俺に手渡してきて。あの日であの会社から去る身としては、なんていうか食べないといけないような気がして、食べてみたんだ。そしたら、すげーうまかった。思っていたより甘くなくて優しい味がして、長谷川はこういうお菓子を食べて育ったんだなって……」
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