日常に、ほんの少しの恋を添えて
「ここがM高原か~」

 ちょっとだけ窓を開け、高原の空気を肌で感じる。
 名前は知っていてもなかなか来ることがなかった場所で、仕事とはいえ来ることができてちょっと嬉しい。
 肌に触れる空気が澄んでてとっても気持ちいい。ここでのんびりできたらどんなに幸せか……

「来るのは初めてか」

 運転席から専務が尋ねてくる。

「はい。一度来てみたいとは思っていたんですけど、いいですね。空気がとてもおいしいです」
「空気だけじゃなくて水も美味いんだよな。この辺の水で沸かしたコーヒー、前飲んだことあるけど美味かった」
「それはぜひいただいてみたいですね~」
「これから行くホテルのラウンジで飲めるよ」

 えっ! と思わず専務を振り返る。

「飲んでもいいんですか?」
「いいさ。せっかくここまで来たんだ。俺も飲みたい」

 専務の言葉に、俄然テンションが上がってくる私。
 うわ~、専務と日帰り旅行みたいでちょっとやだなって思ってたけど、こんなうれしいサプライズが待っていたとは……!!

「もう少しで見えてくるぞ」

 そう言いながら専務の運転する車は、木が覆い茂る林のようなところを通り抜ける。すると木々の隙間からコンクリートの近代的な建物が見えてきた。

「あ、これですか」
「そう。敷地も結構広いんだ。今走ってるここもこのホテルの敷地内だったりする」
「そうなんですね」

 そして車が建物に程近い駐車場に停まる。降りるぞ、と声をかけられた私は、バッグを持って車から降りた。
 都会とは違う、ややひんやりとした風が肌をくすぐる。公道から随分奥まった場所に建っているせいもあり、随分と静かだ。

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