日常に、ほんの少しの恋を添えて
「うん、じゃあ……適当に頼む」
「お嫌いなもの、ありましたっけ」
「……ピーマン」

 少し恥ずかしそうに、専務がこう言って私から視線を逸らした。
 思いがけないカミングアウトに、思わず専務を二度見してしまった。

「専務……ピーマン嫌いだったんですか? 意外です」

 私がこんなリアクションをするもんだから、専務はやや不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。

「長谷川、お前今心の中でちょっと馬鹿にしたろ……」
「し、してません! 了解いたしました。おっしゃる通りピーマンを、避けて、取り分けます」
「今の喋り方トゲがあったぞ」
「気のせいですよ」

 ムスッとして私を軽く睨み付ける専務が可笑しくて、私はついつい笑顔でテーブルの上の料理を皿に取り分けた。そして私が差し出した料理を、「ん」と言って受け取った専務は、黙々とそれを食べ始めた。

 ピーマンが嫌いなんだ。
 そうなんだ。

 この前まで相性最悪! と思い込んで、二人で外出したりするのもちょっと不安だったりしたんだけど。
 でも私の隣で私が取り分けた料理を食べてる専務を見ていたら、そんな不安だった気持ちが私の中から少しづつ消えはじめていた。

「専務、お酒は?」
「いや、いい。ソフトドリンクもらう」


 そう言うと専務が手をスッと上げ店のスタッフを呼ぶ。オーダーを済ませ、専務が料理に手を付け始めたところで、そういえばと専務に話しかける。

「さっき知ったんですけどこのお店って専務の紹介だったんですね。お詳しいんですか?」
< 46 / 204 >

この作品をシェア

pagetop