日常に、ほんの少しの恋を添えて
 ずるずる引きずられるように洗面所に移動し、口をゆすいで顔を洗った。そしてスッと目の前に差し出されたタオルを受け取り、顔を拭いた。

 恥ずかしい恥ずかしい。私専務になんてことさせちゃったんだ。
 でもすっきりした……助かった……でも専務ごめんなさ……

 そんなことしか思い浮かばず、口から出るのは謝罪の言葉ばかりだ。

「……専務……も、申し訳……」
「いいから! あっ、お前シャツびしょびしょじゃねえか! ちょっと待ってろ着替え持ってくるから」

 そう言って専務は洗面所を飛び出していった。かと思ったらすぐ戻って来た。

「ほら、これなら着れるだろ。これ着て早く横になれ」
「ううう……専務が天使に見えます……」
「やめろ」

 渡されたのは専務の物と思しきパーカー。この時の私はまだ朦朧としていたので、この後どうやって着替えたのかは記憶にないのだが、気付けば私は柔らかい布団に包まれて意識が吹っ飛びそうになっていた。

「……なぜ、こんなことに……」

 こうつぶやいたのを最後に、私の意識はぷっつりと途絶えたのである。



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