日常に、ほんの少しの恋を添えて
「……きろ。起きろ、長谷川」
「んー……」

 頭の後ろの方から降って来た声で覚醒した私は、ガンガンガンという頭痛に顔をしかめる。

「いだい……」
「なんか食えそうか。だめならなんか飲むか」
「飲み物、ください……」

 と、言ったところで私はハッとする。
 ここ、私の家じゃないんだった!! それによくよく見たらここ、昨日私がぶっ倒れてたソファーじゃなくて、ベッドだ!! 専務ったら私をこっちに運んでくれたのか!
 それと……服!
 確か昨日はカットソーにジャケットを羽織って、下はタイトスカートだったと思うんだけど、わた、私、今男性物の大きなパーカーを着ているんですけども……!?
 私着替えた記憶ないよ? まさか、専務が……?
 それに気付いた瞬間サ―――……と血の気が引いた。
 なんてこと……!
 ついでに思い出したのは、昨夜の私の醜態だ。おぼろげながらではあるが、確か専務が私の口に、指を……!!

「あああああああ~~~~」

 よりによって専務にあんなことをさせてしまった……!!

 今度はかあああと恥ずかしさが込み上げてくる。
 私は痛む頭を押さえながら、寝室を出て音がする方へ歩いていく。
 おそらくここがリビングだろう、と思われる部屋のドアを開けると、リビングの隣にある対面キッチンから専務が顔をのぞかせる。
 セットしていないラフな髪にいつもとは違うTシャツにジャージ、という軽装の専務は、一瞬見ただけでは誰だか分らなかった。でもやはりイケメンはイケメンだ。

 その姿を見て、今日が休日だということにも気が付いた。

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