日常に、ほんの少しの恋を添えて
配属になり迎えた初日。
研修でしか来たことがない役員フロア。入り口の自動ドア横にある入退室管理システムに社員証を通すと、自動ドアが開いた。
緊張しながら受付にいる女性社員に挨拶をし、今日から配属になる旨を伝えると、すぐに秘書室に案内してくれた。
ここまでで私のヒットポイントは三分の一くらい消費してしまった。
いやいや、まだ何もしてないから……!! と一人で突っ込んでみる。
ちょっとだけ気合を入れてノックをし、返事が聞こえたので失礼いたします! と秘書室のドアを開けた。その瞬間、ドアの向こうにいた女性がこちらを振り返った。
「きたきた! 秘書課へようこそ!」
そう言って立ち上がったのは、目鼻立ちの整った美しい女性だった。きりりとした眉が印象的な顔にすらりとした長身。長い髪を一つにまとめて結い上げ、パンツスーツが良く似合う女の私から見てもかっこいいと思えるような女性だ。
「本日からこちらに配属になりました、長谷川志緒です。よろしくお願いいたします」
「私はこの秘書課で室長補佐をしている新見小夜子です。よろしくね!」
新見さんは秘書課の女性の中では最年長で、私の教育担当なのだそうだ。彼女で最年長だなんて、それ以前に秘書課にいた方々はどこに行ってしまったのか、とぼんやり思っていたら私が聞く前に新見さんがこそっと教えてくれた。
「実はね、この課に配属になった女子は何故か社内の男性社員に見初められることが多くてね。だから結婚して配置替えになる子や、寿退社する子が多いのよ」
ふふ、と微笑む新見さん。
初めて知らされる事実に、私は素直に驚いた。