日常に、ほんの少しの恋を添えて
 そうだ、紅茶があったなとここで思い出し、急遽プレーンなシフォンケーキから紅茶のシフォンにチェンジ。

 ここでふと、私の頭の中にある考えが浮かんだ。

 ……本当だったら専務にはあれだけお世話になったんだもの、お礼……いや、お詫びの品でも贈らないといけないんじゃないのか……?
 でも、相手は超がつくお金持ち(多分)。そんな人に貧乏OLの私が、一体何を贈れるっていうのか。

 シフォン型に生地を流し込み、180℃に温めたオーブンで焼きあがるまで、私はPCにかじりついて必死でお礼の品をどうするか考えた。

 どうしよう。金ない、恋愛経験はほんの少々、センス……果たしてあるのか? な私としてはこんなとき何を贈るべきなのかさっぱりなんだけど。
 まあ、気持ちだしね。値段じゃない……よね? 
 自分で自分に問いかけながら、ある程度考えがまとまったところでケーキが焼きあがった。
 オーブンを開けると、紅茶のいい香りに思いがけずテンションが上がった。シフォン生地もしっかり膨らんでいる。

 ――よし。うまくできた。

 オーブンから取り出し、型に入れたままひっくり返す。このまましばらく放置して冷ます。
 そして私はといえば、急いで支度をして専務へのお詫びの品を買いに家を飛び出した。

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