日常に、ほんの少しの恋を添えて
 未だショックの傷が癒えないまま来てしまった月曜日。

 会社に到着するなり、私は新見さんと花島さんに謝罪のため頭を下げていた。

「新見さんの送別会だというのに、とんでもない醜態を晒してしまいまして、本当に申し訳ありませんでした……!!」
「え、どうしたの長谷川さん。醜態って、酔って寝ちゃっただけでしょう? そんな深々と頭下げるようなことじゃないわよー」

 新見さんは大げさよ、と言って笑ってくれた。しかしその言葉を私はイマイチ信じきれない。

「本当ですか……? なにか、寝言とか、言ってたりとか……」
「寝言? いや、すやすや気持ちよさそうに寝てたけど」
「そ、そうですか……」

 ということは、私が寝言を言い出したのは専務と二人きりのときか? なんというタイミングで寝言言ってんだよ、私……
 自分に呆れつつ、持参した紙袋の中から昨日焼いたシフォンケーキを取り出し、新見さんに差し出した。

「お詫びと言っては何ですが、これよかったら……」
「まあ! 長谷川さんたらいいのに気を遣わなくて! でも美味しいからもらいまーす! 花島にもあげていい?」
「もちろんです。ていうか昨日あの場にいらした皆さんに差し上げようと思って持ってきたので……」

 すると新見さんがラッピングされたシフォンケーキをまじまじと眺め、「だけど」と心配そうに私を見る。
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