日常に、ほんの少しの恋を添えて
「この前の質問の返事、聞いてないんだけど」

 ――来た!

 口元は笑みを浮かべているものの、目が笑っていない専務に私はごくりと息を呑んだ。

「……で、ですから! 何でもないんです、きっと専務聞き間違えたのでは……」
「いーや、確かに言ってた。『相性悪い』って、一体何をもってしてそう思うんだ?」
「……」

 誤魔化しもきかない。どうしよう。これはもう正直に話すべきか。
 こっ、こんなくだらない理由本当に話さなきゃだめなの――?
 泣きたい気持ちをグッと堪え、息を整えて私は専務の顔をじっと見つめる。

「あのですね。くだらないですよ? ほんっとーにくだらないんですよ!」
「くだらないかどうかは俺が決める」
 
 専務が真面目な顔できっぱりと言い切る。
 うわーん、もうダメだ。話すしかない。私は心の中で泣いた。

「……以前、専務甘いものがお嫌いだ、と私におっしゃいましたよね? 実は私の実家はケーキショップを営んでおります。小さなころからお菓子に囲まれてきた私にとって、あの日専務が言った言葉は、地味にショックでして……」
「あの日。あの日? 俺なんか言った?」
「!!」

 お、覚えてないのか――――!!

「言ったじゃないですか! 甘いものは食べなくても問題ない、必要のないものだって。そう言われたので、私実家を否定されたような気分になってしまって……」

 私が慌ててあの時の状況を説明すると、専務が驚いた顔で「ストップ」とでも言いたげに掌を私に向けた。
< 68 / 204 >

この作品をシェア

pagetop