日常に、ほんの少しの恋を添えて
「俺ら買い物あるから、またな、小動」
「ええー、もう行っちゃうのかよ。せっかくだから彼女に会っていけばいいじゃん、湊」
なんだかやけに最後の「湊」の部分が引っ掛かった。ちょっと嫌味、というか含みを感じたんだけど。
そして心なしか専務も、様子がおかしい。
どうしたのかなと思っていたら、小動さんの隣に「お待たせ!」と小走りで女性がやってきた。
小柄で、長い髪をくるくると巻いて、大きな目が印象的。なんとも愛らしいその女性は、専務の顔を見て動きを止めた。
「え、湊君……?」
「久しぶり、美鈴(みすず)」
柔らかく微笑んで言葉を交わす専務だったけど、どう考えてもさっきと違って何かがおかしい。
私は何となく、この三人の間に割り込めない壁のようなものを感じたので、こそっと専務の手から逃れレジに行き、商品の会計を済ませた。
私がレジに行っている間、三人はぽつりぽつりと会話を交わしていたようだった。
でも私が会計を終え戻って来た時、何となく専務の表情に困惑の二文字が浮かんでいるのが感じ取れた。そのことに気が付いた私は反射的にその三人に向かって歩き出していた。
「お待たせしました!」
私は専務の手を掴み、彼を見上げる。
私の予想外の行動に驚いた様子の専務だったけど、すぐに表情をやわらげニッコリ微笑んだ。
「ああ。行こうか」
思いがけず大胆な行動に出てしまった私だけど、何となく、専務がこの場から逃れたいんじゃないかって思ったから。