日常に、ほんの少しの恋を添えて
 狼狽える私を、専務はじいっと見つめてくる。

「そんなに俺と噂になるのは困るのか」
「え……、困るっていうか、いや、私は困らないんですが、きっと専務が困ると思います。私みたいな新入社員と、なんて」
「なんでそう言い切れる? 俺がお前と付き合うとして、困ると思われるその原因はなんだ」
「え~……」

 困ったな。こんなに突っ込まれると思わなかった。
 私はただあなたみたいなお金持ちと、私のような一般庶民は不釣り合いです、っていうありがちな理由でそう言っただけなんだけど。
 私がこんなに返事に悩んでいるというのに、専務は私がどう返してくるか、興味津々なようだ。
 仕方ない、正直に話すか。

「専務は藤久良グループの御曹司じゃないですか。私は実家がケーキ屋を営んでいる、極極普通の庶民です。だからです」

 私がこう言っても、専務は特に表情を変えない。

「だからってそんなん理由になるか。別に名家だから名家の人間と付き合わなきゃいけないわけじゃない。それに俺、次男だしな」
「そうなんですか……」

 次男、という言葉で思い出した。
 秘書課に入ってから専務のことは周囲からいろいろ聞いた。
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