恋愛預金満期日 
 
「海先輩、もう一軒行きませんか?」

 神野が盛り上がっているようで、元気よく声を掛けて来た。


「もう十二時だぞ!」
 と僕が眉間に皺を寄せた時だった。


 反対側のビルの影に僕は彼女の姿を見つけた。
 
 彼女は寒さを堪えるように、肩を竦め小さくなって立っていた。

  
 すると、ビルの反対側から男性の影が現れた。

 彼女はその男を見ると両手を差だし走り寄った。

 その男は彼女の肩を抱き軽くキスをすると、タクシーを停めた。

 タクシーのライトの光に映ったのは山下だった。


 僕の心臓は鉛が乗ったかのように重く沈んだ……



「先輩…… もう一軒いきましょう。とことん付き合いますから……」
 今度の神野の声は落ち着いていた。

「ああ……」
 僕は声を出すのがやっとだった。


 神野と二人、時々顔を出すスナックへ入った。


「先輩、キツイ事言うようだけど、彼女の事は諦めた方がいいです。これ以上深入りしたら先輩傷つきます。今なら飲んで忘れられますから……」


「ああ、そうだな……」

 僕は水割りをグ―っ、と一気に飲み干した。


 ウイスキーの強い香りが、僕の頭の中を溶かしてくれないかと願った。
 
< 11 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop