恋愛預金満期日 
「それに! 私、海原さんに会いに、東京に行ったんですよ」

「いつ?」
 僕は驚いた。


「帰国して、二か月くらい経ってからかな? ちょうど昼休みで、銀行の前の公園で、楽しそうに女の人と、手作りのお弁当食べていたから…… やっぱりって……」


「…… それ、姉ちゃんです……」
 僕は力無く言った。


「ええ―!うそ―」
 彼女は又、両手で口を押えた。


「こっちが、『ええ―』ですよ…… どうして、声掛けてくれなかったんですか?」
 僕は下を向いた。


「声掛けられる訳ないですよ。情けない修羅場になると思うじゃないですか」
 今度は彼女が下を向いた。


「どうして…… 僕はずっと、ずっと、あなたを探して…… あなたの事ばかり考えていたのに…… 会いたかった……」


「海原さん…… 変わってないですね……」


「変わる訳ないじゃないですか…… あなたへの気持ちが変わるなんて……」


「私も会いたかったです……」


「本当ですか?」


「ええ。マフラー、何度も捨てようって思ったけど、寒くなると、いつも手にしてしまうんです。捨てなくて良かった」


「捨てられなくて良かった」

 僕の口から思わず出てしまった。

 彼女が笑いだした。


 そうこの笑顔、笑い声、僕が恋しくて、恋しくてたまらなかったものだ……



「でも、海原さん、お見合いしようとしたんですよね?」

 彼女が少し冷ややかに僕を見た。


「いや、それは部長に無理矢理頼まれて…… それに、初めてですから」
 僕は焦って言った。


「その割に、美容院に行ったんじゃないんですか?」
 彼女はチラッと僕の頭を見た。


「そうですけど…… もう、勘弁して下さい」
 僕は頭を下げた。


「そうですね…… お陰で、又、会えたんですから……」
 彼女はほほ笑んだ。


「本当に……」

 僕は彼女の目をじっと見つめた……

 今までの想いが溢れ出てた……


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