恋愛預金満期日 
 部長達がテーブルに近づいて来た。

 食事が済んだようだ。


「私達はこれで失礼するよ」
  部長の言葉に、僕達は立ち上がった。


「部長、本当に今日はありがとうございました」
 僕は深々と頭を下げた。


「まさか、こんな事があるとはなぁ……」
 部長も不思議そうな顔をしている。


「お話し聞こえてきてしまって、ごめんなさいね…… 本当にこんな不思議な偶然が、あるものなのね? 運命かもしれないわね」

 奥さんは彼女の手を優しく握った。


「部長! 僕は部長の元で働かせて頂けて感謝しています」
 僕は部長にもう一度頭を下げた。


「おいおい…… ここで言うセリフじゃないだろ? 頼むから仕事で言ってくれ」
 部長はやれやれと僕を見た。


「多分、仕事より感謝しています」
 僕は興奮のあまり口に出してしまった。


「お前は、恋愛も仕事も、不器用だけど確実に手に入れる男だな。それにしても良かったな。家内の見合い好きも、ただのお節介とは限らないみたいだな」

 部長は僕の肩を叩き、出口へと向かった。


「まあ。お見合いだって、運命の出会いだと思わない?」
 
奥さんもそう言い残して、部長の後に続いた。


「本当に面白い男だ。夏樹ちゃん、私も帰るぞ」

 彼女のおじさんは、又、笑いながら去って行った。


 僕の前に彼女が現れた途端、僕は周りの人の優しさに気付かされる。
 
 彼女と出会ってから、僕を助けてくれた人達の顔が浮かんだ。

 彼女は、僕の人生を大きく変えて行く。


 そんな彼女に僕は恋をし続けるのだろう…… 
< 87 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop