意地悪な両思い


「ようやくお戻り?」

「もう電話終わったのか?」

「とっくにね。」
 一色は待ちくたびれたとばかりに、椅子をくるっと回転させた。

俺もならうようにデスクに座る。1か月しかないから一色の席は、今だけ俺の斜め右に位置してる。木野も内川もほかの社員も、今は席をはずしていた。

「……何の電話だったのか聞かないの?」

「あ?」

「本部からの電話のことよ。」

「あー……」
 俺はデスク上に置かれていた書類を手に取った。

そして彼女と目も合わせずこう言ってみせる。



「新しい営業所のことじゃないの?」


 案の定というべきか、一色は驚きの表情をしてみせた。


「なんで知ってるの?
まだこの情報っ……


内々にしか知らされてないことなのに。」



「……さっき話してたじゃん。」

「え?」

「給湯室で。


市田と」
 俺は一色に目を合わせる。


「……聞いてたの?」

「まぁ。全部がぜんぶじゃないけど。」
 一通り見終わった書類をパタンと閉じた。


一色はそこでふっと不自然に笑う。

「で、答えは?」

「……聞かなくても分かるだろ?」
 顔色ひとつ変えず、俺はそう言って見せた。


「はいはい。分かってましたよ。

分かってて説得しに来たんだけど。」
 まだあきらめていないのかじっと見つめてくる。


「違うだろ?」
 すぐに俺は口を開いた。

「え?」

「お前ならできる。


そう俺に言って貰いたくて来たんじゃないの?」
 そこで目線はあわなくなった。一色が視線を下にさげたから。

「うるさいっ」
 赤くなった頬を隠すために。


「お前ならできるよ。
というか、ひとりでやってみたいって本当は思ってるんじゃないのか?」

「好き勝手言ってくれるんだから」
 そう言う彼女はすこし吹っ切れた様子に見えた。


「準備大変なんだろ。
手伝うから。さっさと仕事内容言え。」

「…半端じゃないわよ、すること。」

「それぐらい引き取ってやるよ。」
 ふんといいながらも、彼女は満足そうな表情を浮かべて見せる。

「あーただ一個条件言ってもいいか?」

「なによ?」
 俺は一色に”そのことを"告げた。


「あんた……相変わらず性格悪。」
 そう彼女に言われてしまいながら。

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