意地悪な両思い
その日の夜、速水さんから電話があった。
一色さんが本部に戻られるまでしばらく忙しくなるらしい。毎日残業になるから、金曜日の一緒に帰る約束も当分の間無しになった。
「ごめんな。」
「ううん、しょうがないよ。
ずっとって訳じゃないし、あと3週間の辛抱だから。」
「うん。」
救われたように速水さんがありがとうって言う。
「……速水さん、一色さんからなにか聞いた?」
そこで私は少し勝負に出てみた。
一色さんが今日の今日で、新しい営業先ができることを話したのかもしれないと思って。
「なにが?」
「今日一色さんとあんまり喋ってないの?」
「うん、そんなだけど。」
「あ、そっか。ううん何でもない。」
あっけなく勝負は失敗に終わる。
一色さんがまだ彼に話していないとしたら、
これ以上追及してしまうと
黙っているという約束を破ってしまうことになりそうだから。
今度一色さんに言っておこう。
もし速水さんに伝えたら教えてくれませんかって。
それぐらい…いいよね?速水さん。
あなたが決める決断に、我儘は言わないからさ。
どっちを選んだって、私は背中を押すから。
その準備をしておくから。