意地悪な両思い
「あ、市田さんバスでしょ?」
「え?」
「バス停過ぎちゃうよ、こっちきちゃぁ。」
「あ、あぁ!」
た、助かったぁ。
このまま逃げきれないかと思った……。
「じゃぁまたね~。
また速水さんたちと飲もうね~。」
ふりふりと両手を胸前でふる彼女に、愛想笑いを浮かべると彼女が角を曲がるまでその姿を見続ける。
もう大丈夫だと確信がもてるまで、5分はかかった。
忍ばせていた携帯を私は取り出す。
「もしもし?」
今度は3コールで出てくれた彼。
「なんかさっき電話きった?」
「あぁ、ごめんなさい切りました!
ちょっと……ハプニングがあって。」
苦笑いを思わず浮かべる。
「なに、誰かいたの?」
「あー、うーん……」
木野さんに牽制されてたなんて言えないしなぁ。
速水さんの部下だし、あの恐ろしさは私にしか分かんないと思うし。
何でもないですと告げると、話を変えるように本屋に向かえばいいですかと尋ね返した。
「いいよ、俺そっち向かうから。
まだ会社近くだよね?
あそこの、近くのコンビニでい?」
「それはもちろん。
でも本屋でも大丈夫ですよ?」
随分待たせてしまっているから、本屋で待ってくれているであろう速水さんをまた動かせてしまうのも…
「うるさい、すぐ行くからそこいて。」
「……うん。」
おとなしくうなずくと、指定された、バス停横の信号を渡って3分も経たないうちにあるコンビニに足を踏み入れる。
そのまま中に入らずに、かといって店前で待つのは目立ってしまうので、若干影になってる辺りにひっそりと佇んだ。
「もう着いた?」
速水さんが聞いてきた。
スピーカーモードだから、運転しながらでもずっと通話してられるんだよね。
「着きましたよ、横に立ってます。」
「分かった。
今、信号待ち中。」
「うん、分かるよ。」
たぶん指示器の音。
止まってるからずっとカチカチ電話向こうでなってる。