意地悪な両思い
信号がそこで青になったので、私たちはとりあえず渡り始めた。
「雨宮さんって優しいですか?」
「優しいですよ、すごく。」
ラッキーなことに、木野さんがふってきた話題は雨宮さんのこと。
「へぇー、私あまり関わったことないんですよねぇ。」
「あぁそうなんですか。」
うまーく返事しながら、いましかないと思った私はそこで携帯をカバンにしまった。
今の私にとってのそれは、爆弾みたいなもんだからね。
横断歩道を渡り終わると、木野さんと別れるバス停まではあともう少し。
それまで雨宮さんの話題で行きたいけど……
「あ、そういえばこの間速水さんともなんか話してたよね?」
「え!?」
まぁそんなうまくいくわけもなく。
不意打ちの彼の名に、思わず声が高鳴って。
そして、すぐにそれ以上違和感を持たれぬよう「話してましたっけ?」と柔らかく答える。
「うん。肩にも触れてたし~」
「か!?」
「え?」
「あぁいえ。」
か、肩に触れてた……!?
え、いつだろう?いつだろう?
「まさかねぇ~」
木野さんはふふふふと含み笑いを浮かべる。
「そ、そうですよ~」
私もつられてふふふふと笑う。
木野さんどこで見てたのよ、こわいすぎだから!
おかげでもう、わたし木野さんの顔ろくに見れない。
専ら目線は下降気味。
だから、もうそこにまでバス停が迫っていたことに私は気づかなかった。