意地悪な両思い
そのまま彼は帰路へと車を走りさせ始めた。煌びやかな4車線ある表通りを信号に一度もかかることなく、車が通り抜けていく。
「今日は速水さん早く終わったんですね。」
そんな様子を見ながら早々に私は口を開いた。
「あぁうん、結構ね。
ちょうどキリがよかったから。
今日はあんまり内川に邪魔されなかったし。」
そう話す速水さんは、確かにいつにもまして余裕な様子。顔も疲れを感じさせないし、表情を崩す速水さんにつられて私も笑ってしまう。
「市田は?
下の部署行ってたんだろ?」
「あぁはい。ご存じでしたか。」
見かけたのかな、下にいるとこ。
「木野からね。」
「あ……」
「なに、あ?って。」
「あぁ、いやいや。」
木野さんから教えられてたのか。
って、
「なんか言ってました?木野さん。」
さっき嫌な気出してたし。
「なんかって?」
「いや別に!」
まぁ大丈夫か、速水さんに変なところはないし。
杞憂に過ぎないよね…?
「何時から行ってたの?
あんまりデスク座ってるとこ見かけなかったけど。」
「今日夕方前ぐらいからもう下の部署に行ってて。」
「そんな早く?」
「あぁはい。」
って速水さん私のこと仕事中見てたんだ。
気にかけてくれてたんだな―――心配させといてなんだけど、にやついちゃうよやばいやばい。
私はわざわざ手で自分の口端をきゅっと持ち上げる。