意地悪な両思い


 そうして来たる、次の金曜日―――ついに仕事帰りのお家デート。


今日はメイクも朝から少しだけ濃いめ。

ピンク混じりのブラウンシャドウ、ブラウンアイライナー。
服もこの日初おろしたのAラインの白スカート。

トップスはお気に入りの水色でここぞの勝負時に着ると決めてるやつ。髪の毛もちょっとだけ巻き髪だし、胸張って頑張ったって今の私なら言える。


 だから、そんなだから、


「市田さん、今日も一段と気合入ってるね。」


「…またばれました?」

「うん、ばればれ。」
 隣の席の品川さんにすぐにそう気づかれてしまう。


 実は、今週の月曜日も彼女に何か良いことあった?って聞かれたばかり。恰好とかは今日と違っていつも通りだったんだけど、彼女いわく、表情がにやついてたらしい。

きっと品川さんは女子力高めの大人さんだから、分かっちゃうんだろう。
何ならそのうち好きな人―――速水さんのことだって一番にばれちゃいそうだ。


実はもう気づかれてたりして?

なーんてさすがにそれはないか。


「デート?」

「あ、えっと、」
 そこでちらっと一瞬藍色のスーツを遠目で見て、

「…はい。」
 頬が火照るのを感じながらこくんと私は小さくうなずく。


「可愛いなぁもう。
こっちまで照れちゃったよ。」
 そう言う品川さんは、わざとらしくパタパタと顔を手で仰いで見せた。

「最近ますます綺麗になったもんね。」

「ええ?
からかわないでくださいよ。」

「嘘言わないよ、本当だって。
みんな噂してるよ?

市田さん最近雰囲気変わったよねって。」

「もうまたまたー!」
 初耳ですよ、そんなこと。


「でも、長嶋さんにもたまにはかまってあげてね。
飲みに行ってくれなくなるかもってこの間泣いてた。」

「え?もうオーバーだなぁ。」
 ねー、お母さんみたいと冗談を言って見せる彼女に私は笑い返す。 


「じゃぁ今日は早く帰らなきゃだね!」

「ですです。
18時過ぎぐらいに出るのが理想なんですけど…」
 時計を覗くと、今はちょうど12時を回ったところだ。

「手伝いは何時から行くの、15時ぐらい?」

「そうですね。」
 今している作業が結構かかるから、それぐらいになりそう。


「そっか……私にできることあったら言ってね。
今日ぐらい旦那に息子の迎え頼んでもいいし…。」

「お気持ちだけで十分嬉しいですから。」
 さあて頑張らないとね、品川さんにも応援してもらったし。

「ちょっとこれ、雨宮さんに渡してきますね。」
 私はそこで席を立った。

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