意地悪な両思い
「速水さん。」
「ん?」
どうしたと優しく彼は言った。
落ち着いたのか、そこでようやく私の方を向いてくれて。
「今日、待っててくれてありがとうでした。」
「はいはい。」
そう荒く言いながらも、見える表情はさっきよりも柔らかい。
ぽんって私の頭に大きな手を置いて、安心させるように撫でてくれる。
「んふふ。」
「なに分かりやすくにやついてんの。」
「にやつかせてくださいよ。」
幸せなんだもん。
「困ったやつだなあ。」
そう言いながらも、速水さんも私と同じように笑ってくれてる。
そしてぎゅうって抱きしめてくれる。
運転席と助手席の間に若干ある隔たりが煩わしいぐらいに。
「速水さん、隣人さんとか帰ってきたらどうしよう?」
もうかれこれ15分はこうして駐車場で喋ってるし。
「ぱって離れたらばれないよ。」
「んーでも離れたくないや。」
「ばかだなぁ。」
私たちはくすくす笑う。
分かってるんだよ、なんだこのいちゃつきって。
どこぞのバカップルだって。
でもね、すっごく今はこうしてたくて。
「市田。どうしよ。
来週すっごい楽しみだ。」
「……家デートだからでしょう。
速水さんいやらし!」
「はぁ!?何だよそれ。」
「冗談だってば。」
笑いながら私は彼をぎゅってまた強く抱きしめる。
それは速水さんの匂いに鼻がなれるくらいに、私の香りと混ざるくらいに。
何度もなんども彼に触れた。