エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「遊びでもいい、なんて曖昧なこと言いません。遊びでいいんです、だからお願いします」

 残暑厳しい九月初旬。外ではまだ、蝉が鳴いていたりするが、一年中空調の整ったこのビルでは、そんなことは関係ない。

 私は長袖の制服に身を包み、首にはおなじみの淡紺のスカーフを巻いている。彼の微妙な表情が視界に映り、私は思いっきり頭を下げた。頭を下げるのは慣れている。今はいつもしているお辞儀の倍の深さではあったけれど。

 彼は倉木高雅(くらきたかまさ)さん、二十九歳。このオフィスビルB.C. square TOKYOのアッパーフロアに支社を置く、アメリカに本社がある世界的に有名なコンサルティング会社に勤めている。

 そこで働いているだけで実力はいわずもなが、なのだが彼は非常に仕事ができる人だった。

 くりっとした瞳は大きいけれど、甘さはなくて涼しげだ。仕事相手と真面目な話をするときに見せる顔と談笑するときに見せる柔らかな笑顔のギャップにやられる人も多いと思う。

「桜田さんて、そんな遊びで付き合える人じゃないでしょ?」

 呆れたように返してくる倉木さんに、私は首を傾げる。

「どうでしょう? 遊びも、本気も、そもそも付き合ったこと自体がありませんから、分かりません」

 正直に告げる私に倉木さんは、どっと疲れたような顔をして項垂れた。おかしい。彼なら大歓迎な枕詞だと聞いていたのに。

 私、桜田美緒(さくらだみお)はこのB.C. square TOKYOの二十七階でアッパーフロアの受付業務を担当している。私が倉木さんのことを知ったのはそこに配属されてしばらくしてのことだった。
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