エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 帰宅してから、、ぐちゃぐちゃになった心を落ち着かせようと必死だった。冷静に、余計なことを考えないように、今しなくてはならないことを考えて行動する。

 金曜日は有休をとっているし、明日が終われば、もう倉木さんと個人的に会うことはない。これで終わりなのだ。とにかく頭を切り替え、お見合いは土曜日の午後からだから、午前中に美容院に行こうとネットで予約することにする。

 空いているだろうか、と思って調べているところで、不意にある単語を思い出した。スペルは分からないので、私はバーで聞いた通り「ビターツッカー バンド」という言葉を検索欄に打ち込む。

 すると、倉木さんと宮川さんが話していたであろうバンドのファンサイトに行きつき、私はそのまま興味本位で見てみた。

 勝手に激しいロックバンドかと思っていたが、女性ボーカルを中心とした四人グループで、アップテンポの曲がメインでありながらも、バラード曲も手掛けており、幅広く活動しているらしい。

 本家サイトにリンクされているところから、サンプルの音楽を聴いてみる。歌詞はまったく理解できないけれど、曲調は好きだと思えた。なによりボーカルの女性の声が、伸びがあってわりと聞き取りやすい。

 自分に興味がないものでも、好きな人のものだと、こうして気になってしまうのだから恋とはなかなか厄介なものだ。ついでにライブ予定のところもチェックしてみる。

 そうしながらも私の頭の中では先ほどの倉木さんとのやりとりが、何度も思い出されてた。あんなに色々としてもらってお世話になったのに、八つ当たりにも等しい態度をとってしまい、今更ながら自己嫌悪に陥る。

 今日だって、苦手なのにわざわざ私のためにヘリまで手配してくれて。紀元さん経由にしても、金銭面でも、きっと実行するまでに色々と無理をしたに違いない。

 どうして、そこまでしてくれるのか。本物の彼女でもないのに。むしろ彼女ではなくクライアントだからサービスしようとして?

『でもよかった。今日は美緒が楽しそうに笑ってくれてたから』

 倉木さんの笑顔を思い出して、手が止まる。倉木さんに対するこの気持ちはいらないし、きっと報われない。それでも、私が望んでいることは、望めることは――
< 90 / 119 >

この作品をシェア

pagetop