おはようからおやすみまで蕩けさせて
(わぁ…いいなぁ)


しっかりと繋がれる掌にキュンとする。
年を重ねてもあんなふうに手を繋げる二人で居たい。


「なんかいいな、あんなの」

 
天宮さんも気付いたようだ。


「いいね。理想」


同じ価値観でいられるってステキ。
最初はいろいろと思い悩んだけど、今は雲も晴れてスッキリとしてる。



「八重桜ってあれかな」


彼が指差す方向に濃いピンク色の花を付けた古木が立ってる。


「そうみたい。行きましょ」


さっきの様に燥ぎながら木に近寄ると、桜が満開の状態で迎えてくれる。

ふわり…と風が靡くと微かに香りが漂う。桜の香りはどこか胸を擽ったくさせる。



「八重桜って一つ一つの花が大きいね」


低い枝に咲いてる花を手に持って呟くと、彼も上の方を見上げながら頷く。


「花弁が重なってるからお祝い事に使われるのかな」


桜茶の桜はこの花を塩漬けにしたものだ。
めでたさの象徴ともなる桜を暫く無言で眺めた。



「結実、あのさ」


声に振り返ると彼がこっちを見てた。
普段とは違う雰囲気の彼にドキッと胸が鳴った。



「何?」


意味深そうに微笑む様子が妙に思えて尋ねると、着てたジャケットのポケットから小さな箱を取り出す。


「本当なら一緒に選べば良かったんだろうけど」


白い箱を開けると、中には紺色のスエードで覆われたケースがあって。


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