おはようからおやすみまで蕩けさせて
自分から飲みに誘うのも触れるのも、結実だけに決めておいた。他の女には指一本だって触れてはいない。


「そこまで言い切れるなんて流石だな。俺も少しはお前を見習うべきかな」


フフンと鼻で笑いながら煙を吹き出す。その煙の行方を追いがら自分ももう一本吸おうかとポケットの中に手を入れた。


「…それよりもいいのか?部下なら同じ部署では働けないだろ」


就業規則は知っているんだろうと言われ、「勿論知ってるさ」と頷いた。


「飛ばす時は俺を飛ばしてくれるように人事には頼んであるんだ。結実にはこれからもバイヤーチームを引っ張って行って欲しいから」


オフィスの規則では、同じ部署の同僚と結婚した場合、夫婦揃って同一の部署では働けないことになっている。

その場合、どちらかと言えば女性の方が異動させられる。出産や子育てなどの関係で、女性の方が動かし易いと思われているみたいなんだ。


「それを奥さんは希望してるのか?」


「いや、そうじゃないけど」


二本目のタバコに火を点けて燻らす。
頭の片隅にはプロポーズした前夜の記憶が蘇ってきた。


あの時の結実はとても嬉しそうだった。
大厄が明けただけでなく、大口の契約が結べたことも喜んでるみたいだった。


「俺は部署を異動したらヒラに転向しようかと思ってるんだ」


俺の発言に山本が驚いた様な顔をして体ごと振り返った。


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